【長野マラソン完走記】2002.04.14
§ 奇妙な符合 |
シーズン最後のレース、練習量もさほどなく、もはや観光モード、前日の結構 な量の飲酒、当日の好天、そして、初めてのコース… 奇妙なことに、あるときの条件と驚くほどに一致していた。 |
それは、2000年4月のかすみがうらマラソンであった。全く期待もせぬまま、 予感もせぬままに走ったそのレースで、一気に2時間50分を更新。それ以来、 その時の条件を何度再現しようと試みても、果たせず、自己ベストは膠着状態 が続いていた。そしてこの日を迎えた… |
§ 戦いの前奏曲 |
スタート地点の山ノ内町は、ややかすみががっているものの、今後の晴天を示 唆していた。標高が高いから寒いぞ、と地元の方に忠告されていたが、気温は 8度ほどあり、しかも、風がない。ランパン・ランシャツでビニール袋も被ら ずに十分耐えられる気候だった。 |
それにしても、整列させられてからスタートまでの時間の長さにややうんざり。 しかも、スタートラインの目の前にお立ち台があって、招待選手を紹介してい くのはいいのだが、レース時にはちゃんと片付けてくれるのだろうかと、要ら ぬことに気を遣わせた。 |
ようやく2分前にお立ち台が片付けられ、ほっとしたものの、30秒前あたりで 風船が割れた音がして、一部の選手が飛び出してしまった。さてはスタートや り直しかと心配したが、何とか収めて、当初の秒読み通り、午前9時5分、道路 脇の雷管もろともに号砲が鳴った。ロスタイムは、数秒程度。 |
§ 36‰のチキン・レース |
このコースは、公認にしては珍しく、ワンウェイでしかも下りという、かなり 特異な形状をしている。下りだから得をしそうなものだが、余りにも急な下り のため、オーバーペースになって、後半潰れるランナーが続出する難コースだ と聞いていた。 |
そこで今回の作戦は、あくまでも設定ペースを維持、下りでは決して飛ばさな いことに細心の注意を払った。5kmで180mの下り、勾配36‰(パーミル)。い かに臆病者になれるかの戦い、意味は正反対だが、まさに「チキン・レース」 であった。 |
実際走ってみて、なるほど下りではあったが、自分としては、聞いていたほど は急ではないと感じた。もっと急な下りなら、妙見山やポンポン山で経験済み だ。しかも、その時はもっと速いペースでぶっ飛ばしている。 |
周りのランナーは下りを利用してどんどん飛ばして行くが、ここは我慢だ。自 分を見失わないように、女子の上位と思われる選手を目標にした。一人、ナン バー909だったか、取材対象となっているらしい選手を見つけたのでそれに合 わせる。しかし、どうも思ったより遅いようだったので、一人ずつ前の女子上 位選手を捕らえていった。 |
幸いなことに、このコースには1kmごとの距離表示があった。あまり細かい区 間でのラップにとらわれるな、という意見もあろうが、自分はこの方がやりや すいのである。 |
ラップは、3:40、3:45、3:44、3:41…と順調に設定ペースのキロ3分45秒前後 を刻んでいた。 |
§ 6kmの高下駄 |
5km通過、18分30秒。文句なしだ。さすがに下りをこのペースで抑えただけ あって、まだ全然息は上がっていなかった。偶然にはなるが、スタート前にト イレに並ぶ時間が長すぎたため、アップを全くしていなかったのだが、おかげ でちょうどいいアップになったようだ。 |
6kmあたりで、ようやく下り区間は終了。何か、ここからがようやくスタート のような気がした。それもそのはず、ここまではとても楽に走れていた。 |
例えるなら飛行機がエンジンを噴かさずにグライダー状態で滑空してきたよう なものである。更にマニアックな例えなら、標高0m初速ゼロから打ち上げるの ではなく、他の航空機に上空まで運んでもらって、高度と初速を稼いだ状態で 発射するロケットのようなものであった。 |
いずれにせよ、かなりの燃料を節約できたはずである。いわば、6kmの下駄を 履かせてもらった状態であった。 |
これはひょっとするとひょっとするかも。シーズン最後の最後で、乾坤一擲の 勝負に出るチャンスが到来した。 |
§ クール・ランニング |
その後もほぼ設定ペース通りの快調な走りが続いた。高速道路脇を抜け、河川 敷に入る。例年風が強くなると聞いていたが、今回はたまたま弱いのか、むし ろ心地よいぐらいであった。 |
しかし、天気はすっかり晴れ渡って、気温は徐々に上がっていた。ここでまた ふとした偶然が幸運を呼んだ。 |
最近のレースでは、眼鏡がうっとうしいので使い捨てのコンタクトレンズを付 けているのだが、今回はちょっと格好つけてみたかったので、サングラスを買 い込んで掛けていた。 |
不思議なことに、まぶしさを感じないと、体感的に暑さがやわらいで感じられ るようなのである。レース後に、皆「暑かった」と感想を述べていたのだが、 私は結局最後までそれ程暑いとは思わないままだった。 |
そうこうするうちに、早くも中間点通過。1時間18分15秒。あとハーフマラソ ンを1時間22分で走ればよいのか。前回豊橋の時は到底無理だと感じたが、今 回はひょっとしたら何とかなるかも、という思いを抱いた。 |
§ エムウェーブの奇跡 |
しかし、徐々に疲労が襲いかかる。6kmの下りで心肺は楽したかも知れないが、 脚にはそのツケが回っているのである。河川敷から分かれて一般道路に出る上 りで、ペースが落ちる。 |
遠くにエムウェーブが見える。自分には、「M」というより「風の谷のナウシカ」 に出てきた巨大昆虫「王蟲」に見えるのだが。何とかあそこまで頑張ろう。 |
25km通過、1時間33分3秒。ここまでは何とか設定ペースだったが、ここからズ ルズル後退してしまうことが最近よくあるパターンだった。 |
ところが、エムウェーブ敷地に入った途端、何か異様な空気に包み込まれた。 ここはゴール地点なのか、と見まがうほどのたくさんの観客。しかも、トップ 選手でもないのに、大声援。片手を挙げて応える。さらに声援が上がる。 |
背筋が、ゾクゾクした。何か得体の知れない力が湧いてきた。ちょっと前まで の弱気がウソのように、敷地内の多少のアップダウンももろともせず駆け抜け た。この1kmのラップは、5秒上がった。 |
§ 第2段エンジン、点火成功 |
今回は初めてのコースではあったが、たまたま事前に詳しいコース案内をチェ ックすることができていた。その時にこれこそが勝負ポイント思ったのが、後 半2ヶ所の上り坂であった。 |
その一つ目が、28km付近、五輪大橋の上りであった。取り付け部分は自動車専 用になっているので、なだらかに延々と上りが続く。ピッチ走法で何とか登り 切ったところで、ここにも応援の観客がいた。一般車通行止となったこの橋に、 わざわざ応援のためだけにやってきた人達に、頭の下がる思いだった。 |
30km通過、1時間52分27秒。平均速度ではキロ3:45をここまで守った。かつて このペースでここまで来られたのは去年の福知山だけ。だがその時は既にペー スが落ちかけの状態で、もうこれ以上は無理と感じていた。 |
しかし、今回は違った。橋の下りになるから、しばらくペースは稼げる。しか も、まだ余力は残っている感じがした。さすがにキロ3:45は無理だが、キロ4: 00なら何とか維持できそうだ。 |
これはまさしく2時間40分切りのシナリオで描いている第二段階のペースその ものだった。本当は30km地点を1時間50分で通過すべきなのだが、今回は2分30 秒の遅れとなっている。 |
それでもかまわないから、やってみよう。自己ベスト更新の可能性が、出てき た。30〜31kmのラップ、3分58秒。「三段ロケット構想」での第二段エンジン の点火に、初めて成功した。 |
ところが、32kmの通過ラップが、5:00を指す。距離表示がおかしいのではない か。33kmの通過ラップ3:02で、精算終了。まだ、キロ4分の巡航が続いていた。 |
いよいよ2度目の河川敷コースに入る。さすがにラップは4分ひと桁台を指し ていた。でもいつも4分台後半に落ち込んでいることを考えれば、大健闘だ。 粘れ。頼むから粘ってくれ。 |
前方に、招待女子のゼッケンを発見。ピンクに灰色、見覚えのあるユニフォー ム。弘山選手?そんなはずはなかった。しかし、紛れもなくS社の実業団女子 選手だった。 |
登記登録の男子選手が、エスコートするように走っている。あの集団に追いつ け。38km付近、二つ目の勝負ポイント・松代大橋への上り区間で、妙見山モー ド炸裂。ついに、集団を捕らえた。 |
§ 勝利のVサイン |
松代大橋の欄干には、Vサインが掲げられているという。ここまでたどり着け ば、勝利は確実なのだそうだ。果たして、そのVサインが現れた。このままの ペースで行けば、自己ベストは行けそうだ。実業団選手に、必死で食らいつい た。 |
40km通過、2時間33分14秒。この10kmで、40分47秒。わずかに目標ペースより 上回ってしまったが、第2段エンジンは十分その役割を果たした。ついに、1 年ぶりの自己ベストとの戦いが、始まった。残り時間、あと11分。 |
沿道にはこれまたたくさんの応援があった。前回豊橋とは雲泥の差だ。脚は既 にもういっぱいいっぱいだった。おそらくこの区間は自己ベストのペースの方 が速いはずだから、後方からバーチャル自己ベストの自分が迫ってきているは ずであった。 |
41km通過、ラップは4:13。行ける。自己ベストめ、来るなら来い。逃げてやる。 絶対に、逃げ切ってみせる。 |
残り1km通過。何と、この時点でもまだ時計は2時間40分を超えていなかった。 別大への切符も、手の届きそうなところまで来ている! |
ゴール地点が見える。もはや自己ベスト更新は確実だ。あとはどれだけ削り込 めるかだ。しかし、もうペースは上がらない。食らいついていた女子選手から も、徐々に離される。 |
ゴール会場は、トラックではなく野球場だった。やけに弾力のある緑のコース を跳ねるようにして駆ける。サングラスを外した。そして、久々に、ゴール前 で、吼えた。 |
1年2ヶ月ぶり、フル6レース目にしてようやくの自己ベスト更新だった。 |
SPLIT LAP 0- 5k 0:18:30 18:30 5-10k 0:36:49 18:19 10-15k 0:55:28 18:39 15-20k 1:14:10 18:42 (HALF) (1:18:15) 20-25k 1:33:03 18:53 25-30k 1:52:27 19:24 30-35k 2:12:34 20:07 35-40k 2:33:14 20:40 40-GOAL 2:42:31 09:17 ------------------------記録 2時間42分31秒